の続き記事です。
(要因3)オペレータが正しく計測機材をセットできていない
(要因4)参加者が計測チップを正しい位置にセットしていない
(要因5)ゴール前に不特定多数の人が入りやすい環境になっている
についても触れていきます。野辺山シクロクロスでリザルトトラブルが起きたというので写真を眺めたら、少なくともday1では(要因3)があったことは確認ができました。
(要因3)オペレータが正しく計測機材をセットできていない
弱虫ペダル、渡辺先生がちびっこを応援している背景に注目してください。薄く、赤いラインが2本以上見えると思います。が、そもそもで言えば2本以上見えてはいけないのです。野辺山シクロクロスでリザルトが取れないらしいと騒ぎになったので、ゴール前の画像を探したら確実な原因が1つは写っていました。
アンテナは弊社機材だけでなく、他社でもだいたい50~60cm間隔幅を持たせ、赤いアンテナの上には保護マットを設置するのがスタンダードなのですが、写真はアンテナが2本以上かつ保護マットが設置されていませんでした。計測機材見た目2本(実質は1本)で1ペアなのですが、近接で2ペアあったと思います。全く内容を知らない方だと、アンテナが2ペアあると2倍精度が高くなる?と思ってもおかしくはないのですが、実際には設置場所を間違えると2ペア設置することで弱め合うことが起きてしまいまともに動作しません。
この距離感だと【弱め合う】で間違いありません。皆さん自転車乗りだと思いますのでシンプルに説明すると、ZWIFTやROUVYの途中で、近場で電子レンジを使うと【通信落車】が起きる確率が高くなりますが「まさにそれ」です。同じ周波数帯が2つ・近場というのはNGなんです(物理的なお話)
また、アンテナの保護マットが設置されておらず、よくレースに出る人はあれっ?と思ったかと思いますが、走るたびにアンテナ位置が微妙にずれが発生し、精度(意図しない動作を生む)に影響と、何より断線の恐れもあります。
※画像はイメージ 出展 https://www.sol-j.co.jp/technical/interferometer-ra.html
アンテナ設置は計測機材を扱う際の「基本中の基本イロハのイ」ですので、専門の業者に委託はしておらず(本職ならば近接は100%行いません)また計測経験が少ないオペレータが計測を行ったことが伺えます。
計測機材を扱うためには
(A)競技の基本ルール
(B)PC操作(エクセルで関数・VBAがいじれる程度)
(C)ネットワーク(ご自宅の無線LAN環境を構築できる程度の知識)
(D)電源・電波の基礎知識
が必要です。弊社では希望者がいれば「無償」で指導していますので、今まで手集計していたけど・・・そろそろ電子計測もと興味があればお問い合わせまでご連絡ください。なぜ商売のネタを無償指導するかというと、自転車は陸上と異なり運営環境がまだまだ脆弱のため、各都道府県で1人以上大会運営(またはタイム計測)ができる人間を増やしたいからです。商売として囲い込みではなく、ソフトウェアでいう「オープンソース」的な考えです。
実は、来週行われる茨城県のシクロクロスの全日本選手権は、弊社で研修を受けた Flecha さんが、弊社機材を使って計測オペレートを行います。日本でもトップクラスのシクロクロス計測数だと思いますので、シクロクロスでタイム計測を考えているオーガナイザーがいればご相談ください。AJOCCのWEBサイトへデータを送る「CYCLOX」などもワンクリックでデータ生成ができるようになっています。
WEB速報も来週実施されますのでぜひ御覧ください。
(要因4)参加者が計測チップを正しい位置にセットしていない
レース経験者でもたまにある「チップつけ忘れ」も含めて、正しい計測位置に計測チップがついていないとセンサーが反応しません。日本の場合海外と比べ「電波法」が厳しく250mW、特定条件下でも1Wまでと出力制限があります(海外は5Wなどが普通)ロードレース経験者は、フロントフォークに装着するものとわかっていますが、初参加の方は、わからずにサドルの下に巻き付けていたり、ステムに巻き付けていたりすることが結構あります。
我々が競技管理するツールドふくしまのサイトに
https://tour-de-fukushima.jp/before_entry/
参加前の確認事項というページがありチップの装着位置なども記載してあります。ご参考までに。
今年のあぶくま洞HCでもレース初参加と思われるグループが「サドル下」につけていることを発見しました。JBCFなどの経験者向けのロードレースでは、上級者ほどルールの「抜け穴」を探してきますが、大多数の市民レーサーは「大会要項」を読まないことを肌で感じているので裏方の方が、参加者の競技レベルに合わせた対応をしているのが現実です。
ビギナー向けヒルクライムでは「ステムやサドルに巻き付ける方もいるであろう」と、できる範囲で出力を最大にしてトラブルをできるだけ起こさないようにしています。シクロクロスでは、車体交換もありえるためアンクルバンドで計測チップを装着しますが、どの大会でも付け忘れはゼロではないというのが現実です。現場を熟知した主催サイドはトラブル回避のためにチップ付け忘れたら記録なしを要項に記載している方もいました。経験上、付け忘れた人が俺の順位ないんだけど・・・と言ってくることが多いです。
また、過去にゼッケンに装着の使い捨て計測チップを使ったヒルクライムレースが栃木県でありました。主管のサイクルスポーツマネジメント社柿沼社長に使い捨て計測チップは「装着位置が大変重要です」必ずジャージのポケット位置に装着するようにと資料を渡し、受付でも参加者へ必ず説明もお願いしますと伝えましたが、いざレースがはじまってみると1/3くらいの方が反応しません。ゼッケン位置を見ると・・・背中の方につけたりバラバラでした。
自転車乗りにとって使い捨て計測チップでレースはあまり経験がないはず。当然そういったトラブルが多少なり起きるであろうと、事前予測して弊社側でベテランのJCF審判を派遣していましたが、あまりにも多くメモ漏れ、翌日までにはビデオで何度か調整しながらもなんとかカバーできましたが、派遣していなかったら名探偵が必要な状況に陥っていたのは間違いありません。
トラブルが起きた場合、ビデオカメラの映像を見ながら1つ1つ手作業で処理をしていくためちょっと気の遠くなる膨大な作業量です。参加者の皆様に大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。それ以来「主催者がちゃんと案内してくれているだろう」とは絶対思わない、現場で「だろう」という思い込みがあってはならないと痛感した苦い思い出です。後から参加者に原因追及のためにヒアリングしたところ案内は一切なかったそうです。
蔵王ヒルクライムでもありましたが、使い捨て計測チップがダメなわけではなく、自転車乗りが慣れていないため、正しい位置に装着できていないために起きることです。正しい位置に装着していない前提でも問題なく動くように先を見越して対応するのが裏方の仕事。このあたりは場数の差がモノを言います。その後はツールドつくばなど他大会では使い捨て計測チップでヒルクライムを行うこともかなり増えましたが、栃木県のレースが教訓となっています。
(要因5)ゴール前に不特定多数の人が入りやすい環境になっている
トップ画像ですが、野辺山シクロクロスは結構計測難易度が高い設定になっています。ゴール付近に参加者の移動導線があるため、自分のレース中はもちろんセンサーが反応しないと大惨事ですが、レース後に計測チップをつけたまま今度は観戦者として付近を通過してセンサーが反応もおそらく多数あったと思われます。
プロは、まず計測機材を設置するのではなく、ゴール地点に余計な人員が入らないように「養生」することが鉄則です。経験が浅いときは計測機材を正しく動かそうとすることに意識を取られ、人の流れ(センサー所持者の余計な通過をさせない)を考えない。弊社のスタッフにも最初伝えることは、計測は機械を正しく使うのは当たり前で
(1)外乱が入らない環境をいかに作るか
(2)機械を見るのではなく人を見る
この2点を繰り返し繰り返し教えます。機械を使っているのに何を言っているの?と思う方もいるでしょうが、1秒間に100名でゴールスプリントしても機械は正しい情報が与えられていれば正しい計測データを出力してくれます。その機械に仕事をしてもらう(させる)安定した環境を作ることが、実は仕事なんですということを。
と、過去弊社が失敗した事例を交えながら、レースのリザルトが出ないときの裏側をお伝えしました。
【野辺山シクロクロス】
計測機材が動かなくても、ロードレースのように高速で同時に多人数が通過するわけではなく、シクロクロスは審判団(めとり班)だけでもある程度さばけるはずです。東北シクロクロスなど少人数の場合は計測機材を使っていません。野辺山は人数が違いますが、ビデオで照合すれば翌日、最悪でも翌々日には出せるはずです。ここまでリザルトが出ない(出ても不正確)というのは審判側が全く機能していない(スタッフが代わってしまった)&計測機材も新規導入してみたが経験不足で思うようにいかなかったとWパンチという状況だったと推測。
野辺山シクロクロスの担当者には、計測機材の使い方なども指導しますのでお伝えくださいとご連絡させていただきました。次年度に期待しております。