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推薦入学の功罪、支える組織、引退後のセカンドキャリア

東京オリンピック2020
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/

福島県在住者として、とても残念だったのは復興五輪と言いながら「福島開催の試合を無観客にしたこと」

一般の方にご遠慮頂くことは仕方ないとして、選手の親族など関係者や、福島の将来を担う学生たちになぜ柔軟な対応が出来なかったのかは、機会あれば福島県知事に問いたいですね。コロナ禍で本当にいろいろとありましたが「開催され、熱い戦いを見ることが出来て本当に良かった」と思います。

東京オリンピックハイライト動画
https://sports.nhk.or.jp/olympic/highlights/list/filter/highlight/

スポーツに裏側として携わっているため、最高の試合を観戦しながら
(1)輝かしいステージに立つまでの努力
(2)ステージで1番輝いている時間
(3)競技を離れた後の人生(所属協会のパワー有無)
をどうしても裏方目線で考えてしまいます。

最終日、自転車トラック競技を仕事仲間と見ていました。彼は最高学歴、私は反対に箱根駅伝に出る知名度の大学に推薦入学(学科試験無し)から上のステップへとプロセスが違いますが、現在は共に経営・採用する立場のため、選手側そして裏方の話もしながら。

【日本の大学の推薦入学の実態】
皆さんが知ってそうで知らない部分です。タブーなのかもしれませんが、空気を読まない(正しくは読めないですね)ので少し実態を。

生徒にとって「大学名」は極端な話どうでもよく「自分のやりたいこと、当該する競技が強いか、そしてプロにつながる大学か」を優先で選びます。その次に世間体(MARCHや、最低でも日東駒専)など。そして「学科試験はなく面接と小論文のみ」のため、特にスポーツ推薦の場合、大学1年生にはなったが学力は中学1~2年生程度だったという事態も普通にありえるのです。

特に付属校がある規模の大学は、付属校推薦「下駄マジック」があります。野球などで顕著な成績を残した生徒はテストが10~20点(100点中)でも名前をかけば30点で進級クリア。特別点数のかさ上げがあり「60点」くらいになるマジックも実在。最初話を聞いた時にまさか?と思いましたが、リサーチしたところ12の大学付属で実施を確認(もちろん全部ではないと思いますが)正直、学校教育とは?と疑いたくなる現実があるのです。

高校部活顧問と大学との強いパイプ
部活の現実は「高校部活顧問がルートを持つ大学があり、面倒見ている生徒の中で競技成績が優秀な順に行き先が割り振られます」高校部活で名門・王国の立場を作る手段として、ウチの高校で頑張れば大学(名門校)へ自動的に・・・という仲介を武器に選手を集めている構図です。大学側もわかっていて、全国の部活顧問との関係を維持しその中で戦力になる選手が半分くらいいれば、そして不作が続く高校は切ればいいという感覚です。高校からすれば、部活顧問のお陰で学校の知名度が上がったと黙認する傾向があります。そして大学によっては、スポーツ推薦で授業料の免除または減免制度もあり悪用に相当する例も中にはあります。4年間(私立)の場合学費免除でだいたい500万円として、部活顧問から学費免除で大学にいけるんだから「母校の部活にそれなりに寄付するのは当然だよな」というグレーな扱いも。大学は名前を売りたい、学生は学費もかからず目標に専念し結果を出す=需要と供給が合うためすぐにはなくりません。しかし、ここ1~2年で文部科学省もわかってきたのか、削減傾向で推薦枠もだいぶ減りました。

【アメリカの大学スポーツの場合(NCAA)】
https://www.ncaa.com/

山梨学院大学リポジトリより抜粋

2017 年 3 月に公表された文部科学省の「大学スポーツの振興に関する検討会議」の最終とりまとめには平成 30 年度中に日本版 NCAAの創設を目指すことが示された。これは大学スポーツの持つ価値を高めるために大学横断的かつ競技横断的統括組織を作る必要性が議論され、これまで競技団体の学生連盟中心に運営されていた大学スポーツを大学主体に軸をシフトしようというものである。この大学スポーツ改革の主な取り組みとして「大学スポーツ振興の資金調達力の向上」「スポーツマネジメント人材育成・部局の設置」「学生アスリートのデュアルキャリア支援」等があげられている。同年6 月に閣議決定された「未来投資戦略 2017」にも「日本版 NCAA の創設」は明記され、10 月より学産官連携協議会と学業充実 WG、安全安心 WG、マネジメント WG がスタートし具体的な検討が始まっている。その見本とされている米国の全米大学体育協会(NCAA)は 100年以上の歴史を持つ大学スポーツを束ねる巨大組織だ。

かんたんに言うと、アメリカの場合、日本と異なりNCAA(全米大学体育協会)は各競技ごとの組織ではなく、野球、バスケ、アメフト、サッカー、テニス、陸上など多数のスポーツ競技を傘下とした組織で運用しています。NCAAの場合、学業成績が悪いと練習も出来ず試合にも当然参加出来ません(もちろん大小の下駄システムなどは存在します)が、ベースが日本と大きく異るところです。リオオリンピックで最もメダルを獲得したのは「スタンフォード大学=日本で言えば東京大学かそれ以上」です。

スポーツ庁も、現状の日本は「学業とスポーツの両立」および「ビジネスモデル」の構築が全くできていないことを危惧し、スポーツに専心しすぎることの弊害(勉強の大切さを認識しないままスポーツ推薦で大学に入る傾向や、選手引退後のセカンドキャリア問題)を解決するため

UNIVAS
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/univas/index.htmという仕組みもスタートしましたが、日本の省庁・自治体の伝統芸(古典落語の域)とも言える「しがらみに配慮した調整」がメインの組織で何も進んでいないようすが伺えます。

元横浜ベイスターズ球団社長の UNIVASに対する記事
https://diamond.jp/articles/-/204470

スポーツの発展に必要なことは、UNIVASだけでなく「スポーツ界としがらみを持たず、戦略的に戦える顔ぶれにすること。そしてそのリーダーには実績ある経済人を据えるべき」まさに、この通りだと思います。

現在、同じ分野出身の読売巨人軍の元球団会長とお仕事をさせて頂いていますが「プロ野球」がなぜ「プロ」なのか。人と仕組みを学ばせてもらっています。

いろいろなスポーツ業界がありますが
【食えない組織(協会)に共通する大きな問題点】
(1)媒体が関与していない
(2)戦略的に戦える顔ぶれにない
(3)現場リーダーが当該スポーツで結果を出した人

箇条書きにしてみると実にシンプルです。

それぞれのネタで数時間話せるボリュームがありますがシンプルに。

(2)は組織自体に魅力がない(お金がなくても、これから変わる可能性がある組織には戦える顔ぶれが集まりやすいですが、変えられるチャンスがあっても変わろうとしない(昔こうだったからそれが正しい)という組織は優秀な人材から先に逃げていきます。早期退職制度を実行すると残って欲しい人材が逃げ、やめて欲しい人が残るのと同じです。このあたりはどの業界でも一緒ですね。

(1)媒体が関与していない
スポーツを発展させてきたのはメディアです。日本のスポーツを最近までリードしてきたのは野球であり読売ジャイアンツでした。新聞・テレビに限らずインターネットも含めて「メディア」と共に歩めるか。メディア側も商売にならない(スポンサーを呼び込めない)スポーツには見向きもしません。

よく「地域密着型」スポーツクラブという言葉を聞きますが、本当にそうでしょうか?

「地域密着」を基盤にしたスポーツクラブは、より広範囲で強固なファンを獲得するためにメディアを利用する。それが組織にとって理想的なメディアの付き合い方です。スポーツまたは組織の人気が定着することで、メディア側にとっても「強力で安定したコンテンツ」となりビジネスができる。実は「人」が重要な役割を占めます。スポーツと地域との結びつきとは「地域住民」との結びつきであり「ファン」はメディアによってスポーツを楽しむ機会をより多く得ること、つまり「スポーツ」「メディア」「人」の三角形の結びつきを強めることがスポーツ界にとって不可欠です。

日本では、スポーツとメディアの結びつきは強くとも「人」との結びつきが弱い傾向にあります。自転車で言えば「地域密着型プロチーム」いくつかありますが、本当に密着しているかの判定は「公道ロードレース」を1年に最低1回、出来れば複数回開催できているか。なぜか?と言うと地域住民の理解がなければ公道封鎖出来ないため。もっともわかりやすい例だと思います。ウチの場合、福島県内でほぼ毎月1回規模は小さいですが公道レースを開催。地元新聞社福島民報社に広く紙面(インターネット)で取り上げて頂く。福島民報社はそれを元にSUNTORYさんをはじめとするスポンサーを獲得しビジネスにつなげる。ミニマムですが1つの流れを作っています。

(3)トップがスポーツで結果を出した人

長嶋茂雄さんになぜあなたはそれだけ打てるんですか?と質問して帰ってきた答えが「ビューンと来た球を、バーンと打つんです」正直、凡人には理解し難い天才と言われる領域です。結果を出したアスリートほどこの傾向が多いと思います。全日本選手権で優勝すること、世界選手権で優勝すること、オリンピックでメダルを取ること。恐ろしい数の試練を通り抜けたどり着くまでの苦労を考えると「尊敬」という一言しかありません。

しかし、日本のスポーツの世界では「名選手が名コーチやそれ以上になる確率の方が少ないです」スポーツがすべてではありません。栄光の期間も長い人生の一部でしかありません。引退後のキャリアの方がむしろ大切です。

トップにスポーツで結果を出した人じゃない方がいい理由を3つあげるとすれば
(1)出来ない人の気持ちがわからない
(2)一般社会での経験値が少ない
(3)業界内のしがらみだらけ

自分の目線、自分の型にはめることがしばしば。人並み以上の努力もしているため「俺の言う通りにすれば間違いない」間違っている内容でも、その世界で実績をあげた人にそう言われたら、よっぽど反対意見に自信のある人以外は従ってしまうのが現実です。

トップに求められることは、組織を指揮して「拡大し、利益を生み、後に続く選手を育てること」です。競技は人の何倍も出来るかもしれませんが、それ以外は全くのビギナーであることが多いということも理解しておく必要があります。ひとつ確実な見分け方として「決算書=財務諸表」を読めるかどうか。数字(データ)を見れないトップは残念ながら必要ありません。

そして、ボディブローのように効いてくるのは業界内のしがらみです。若い時に成績を残すまで多数の方にお世話になり「当時は最良でも、現在では老害」の皆さんとの関係。そういった方への無駄な根回しが必要で、切りたくても切れないというケースも。

駄目な組織と言うのは「変わることが出来ません」皆さんがどこをイメージするか想像におまかせしますが、日本代表監督がずっと変わりません(結果が出ているならもちろん続投で良いです)先日、目の前で現役日本代表選手が、50歳の外国人アマチュアエリートに負ける現場を見ました。連盟も監督も本気ならば穴があったら入りたいくらい恥ずかしいことだと私は思います。

【引退後のセカンドキャリアと勉強】
一生懸命に、人の何倍も努力して汗をかいても「結果がすべて」ほとんどが残念ながら実らない世界です。それでも夢を現実にと進めますが力及ばず、所属組織のパワーが弱いほど守ってくれることもなく、いざ社会に放り出されてはじめて自分が何も出来ないことに気づきます。

大学で目指す進路から途中離脱した学生の末路もほぼ同じです。いざ、勉強をしようと思っても自分の学力のなさに愕然とします。自分のことになりますが、統計学の授業に出席したまたま運悪く黒板の前で解きなさいと言われ前に出ましたが「行列」という言葉の意味すらわかりません。何百名といる中で教授に「君は講義受ける資格ないので廊下に出ていなさい」女性の目も気になる年頃ですし、数百名に馬鹿と認定されたことが恥ずかしくてたまりませんでした。

それから、3ヶ月必死に中学生の勉強から復習しました(正しくは初めて学習です)何かに打ち込んでいた人間は集中力が人並み以上にあることが多いので、なんとか追いつき人並みになり次のステージに進みましたが、今度は国際舞台に立つとモノリンガルの日本人は語学の壁にぶつかります。論文はすべて英語かつ質疑も英語です。最低限対応できないと相手にされないことに嫌でも気付かされます。

雑談になりますが、特にヨーロッパは教養の有無が社会的地位を支えている社会で、教養による社会階層が明確に存在します。特に、取引先でもあるドイツの場合、日本と異なり人生が10歳でほぼ決まります(大学か、専門学校か、就職か)推薦で大学入学ということがない明確な世界です。

話は本題に戻り、引退後の生活を一般の方より確実に多く見ていますが、実社会に放り出された時に「圧倒的にスキルが足りず苦労」していることは否めません。野球独立リーグ(こちらも自転車ロードレース並に厳しい世界で、月額15万円Xシーズン6ヶ月=90万円の年俸で頑張っていました)の選手、良い大学卒だったのが会社に適応できずという現実。競技者としての人生より、引退後の人生の方が長いわけです。何か一芸で大学入学ができる環境=推薦入試を廃止した方が安易な人生選択をしない(中途半端な状態で足を踏み入れさせないこと)結果として、スポーツ業界全体の発展につながるのでは?と考えるようになりました。

それと合わせて、野球・バスケ・自転車など引退した選手を生活できるようにするセカンドキャリアサポートもはじめています。可能な限り本人が携わりつつ生活できる環境と適正をみながら。最近では自転車:那須ブラーゼンに所属した選手を地方自治体へ。スポーツに関わる人全てが幸せになって欲しいと切に願っています。ウチで指揮指導する法人ですが、セカンドキャリアの受け皿にもなればと多種多様な試みもはじめています。年明けにはスタートします!

Jリーグだけじゃなく、Bリーグ(バスケ)もまとめた川淵三郎さんの記事
いつまで「スポーツバカ」がトップをやるのか
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/08210710/?all=1

そろそろ変わる時期です。いろいろな意味で。
自分も学科試験なしで大学入学して苦労しました。ステージが上がれば上がるほど求められる素養も格段に上がりますし。

東京オリンピック女子ロードレース優勝
キーゼンホーファーさん(オーストリア)は偏微分方程式を課題とする研究者
https://www.researchgate.net/publication/352447874_Small_data_global_regularity_for_half-wave_maps_in_n_4_dimensions
大多数の人は微分積分ってなにそれおいしいの?だと思いますが、理系の大学以上を卒業した方は理解できると思います。

最後に、彼女のコメント
「若くて何も知らない選手には “これをすれば上手くいく” とコーチや周りの人間に言われる危険がつきまとう。私も一時それを信じ、そして被害者の1人だった。だがいま30歳になり、何かを知っている人なんていないことを学んだ。なぜなら本当に何かを知っている人は「知らない」と言うからだ」

スポーツ選手は、被害者にならないよう早い段階でスキルを身につけ生きていく力を養って欲しいと思う次第です。

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