ツールド北海道 正面衝突死亡事故 / 交通規制と大会運営の実情を現場から #1
北海道のテレビ局HBCさんの動画
およびトップ画像は公式サイトより
(見出し)
国際競技団体公認のレースで、とても残念な事故です。 国内最大規模の自転車ロードレース「ツール・ド・北海道」。今月8日、参加していた21歳の男子大学生が死亡する痛ましい事故が起きました。
日本で1番公道封鎖型自転車イベント現場経験がある(らしい)との話で、現場実情を教えて欲しいとメディアから打診がありました。記者さんが良い文章を書いてくれると信じていますが
各メディアの報道は以下の2点から
(A)現場や内容を熟知しない記者が記事を書くことが多く、掲載判断するニュースデスクも同様で、実際の話しとズレることがある
(B)テレビの場合放送時間が限られる。新聞の場合掲載紙面が限られる
内容が【切り取り・曲解報道】になってしまうことも熟知、そして心配もしているため、現場実情を正確にお伝えします。
※現場実務を知らない方が騒ぐことがないようにしたいという意図も含めています。
私の長男と年代が近く、以前一緒にレースを走ったこともあり、子供を持つ1人の親として五十嵐選手のご両親の気持ちを思うと胸が張り裂けそうです。五十嵐選手のご冥福を心よりお祈り申し上げます。ご遺族、ご友人の皆様に深い哀悼の念を捧げます。
文責:鵜沼 誠
(はじめに)
現場では何が起きるかわからない。それでも選手の命を救う対応ができるようにしなければならない。
我々も一生忘れられない出来事があります。レース活動をはじめた頃1人の選手を大変残念ながら生きてご家族の元に返すことが出来ませんでした。レース中の直線で単独転倒。選手にかけよりましたが普通の状況でないことはすぐわかりました。応急と救急車を呼びましたが亡くなりました。その後、病院とご家族からお聞きしたのですが脳に血がたまる手術後3ヶ月程度でレースに参加。自転車レースが好き過ぎるあまりまだ完治しない状況での参加とのこと。多少の怪我はあったとしても、必ず生きて家族の元へ返す体制を作ることを決意。
その後、規約に手術後1年を経たない場合はレース参加を禁止、原則単独参加を禁止、レースメイン車両の後ろに主催者が派遣する医療とは別に、経験豊富な国家資格保有者を自前で別途揃えるなど対策。残念ながら台風13号の被害で中止になってしまったラインレース ツールドふくしま の場合も
同時多発発生に備えて、医療対応責任者 公立医療法人福島県立医科大学医学部救急医療学講座 主任教授をはじめとするドクター・研修医10名(車両5つに2名ずつ同乗)さらに応急班2台の7台体制。いわき市・南相馬市の病院の受け入れを整え、ドクターヘリは双葉医療センターに2日間待機。搬入先の県立医大にも整形外科医待機する体制を整えておりました。競技の世界ではどうしても審判長、レースディレクターの意見が優先されますが、何がおきるかわからない現場では「競技より命を優先」という体制は必ず確保しています。
ここから、本題のレースでの交通規制について説明致します
(1)レースにおける交通規制という言葉の定義
報道で、交通規制が行われていたかどうかという記事を見ますが、この交通規制の定義をまず明確にする必要があります。95%くらい大多数の方が認識違い・勘違いしていると思う部分です。
レースにおける交通規制という言葉の定義も実は2つあります(法的根拠も別)
・警察署長等の行う交通規制(達(交規)第244号)
・道路使用許可4号(一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態、道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為等で公安委員会が定める一定の行為)
何が異なるかと言うと、警察署長等の行う交通規制は「いわゆるみなさんがイメージする交通規制」で許可車両以外通行禁止=警察官も立ち会うことが多い。それとは別に道路使用許可4号は催事ごとを開催する許可であって、警備員を立てて片側交互通行など申請者(主催者側)で決められた条件を守って運用すること=警察官が立ち会うことも少ない。
レースによっては、完全封鎖する部分「警察署長等の行う交通規制」と、一部片側交互通行など「道路使用許可4号」のミックスでの運用など、一般の方にはわかりにくい部分です。下図は福島県で開催している「ツールドかつらお」の人員配置図。地点番号33~41など(福島県道50号)は道路使用許可4号での運用。他は署長規制での運用と交通事情に合わせて、管轄警察署および県警交通規制本部が最終判断を行って運用されます。
ツールド北海道の場合も署長規制と道路使用許可4号の交通規制と2つあります。
「競技のために占有できる道路の幅は左側1車線のみなので、競技者と全車両の運転者は、許された区間以外は左側車線の通行を厳守しなければならない」
「ツール・ド・北海道」では、片側1車線の通行が原則です。
ただし、走行に危険な区間は、主催者側が、自主的に対向車線を規制していました。
レースの規模が大きいため、ルートの全区間を通行止めにすると、住民への影響が大きいためです。
まず法的に車両が絶対入れない部分と、警備員の連絡により車両も入れる部分があることがわかると、物事の理解が進むと思います。
2.交通規制を担当する人員のスキル
交通規制担当のスキルは、C<B<A<Sと並べると
C 全くの一般の方
B 交通安全協会の方
A プロの警備会社
S 交通課の警察官
と大きく分類できます。
※ベテランの交通安全協会の方や、自転車競技部の顧問の先生などはSランクの交通規制が出来ますが稀です。
ネット・SNSでもなぜ交通規制をしているのに車の侵入が起きるのか疑問という書き込みを見ましたが、レース現場では残念ながら侵入は必ず起きてしまいます。なぜ起きるのかは対応するのが人間だからです。AIロボットなら確実に防ぐ(もしかしたらビジネスになるかもしれません)
訓練された警察官でさえ関係ない車両を通してしまうこともあるので、それ以下の警備会社、交通安全協会、一般の方はそれ以上の確率・高頻度で「車両侵入を許してしまう」のです。大多数の方は文句を言いながら話を聞いていただけるのですが、50後半から60歳以上の方は、誰に許可をもらっている?俺の許可をもらってないだろと言って交通整理員を振り切って行く「暴走老人」が多いです。
特に白い軽トラに乗った高齢者を見たら敵と思え。レース現場経験者なら頷いていただけるフレーズです。交通誘導員は、警備指導責任者(警備員を指導する立場)から最後は身を守れと言われており、そういった暴走老人を止めることはなく、最終防壁として我々競技側でブロックしているという現実があります。
警察の方が見ていたら怒られそうですが、侵入車両をゼロにするというより、侵入車両がいる前提で「どう潰していくか」が競技運営側のスキルと言っても過言ではありません。問題を起こす確率が高いのは「60歳~の高齢者」です。
#2 に続く